豊洲新市場 水産仲卸売場棟 見学報告

2016年10月17日、豊洲新市場の見学会を開催した。

本来であれば翌11月に予定されていたオープンを控え、この機会を逃すと開業後に限定された部分しか見られないだろうと考え、20人という人数制限付きながら強行した見学会であった。

見学したのは「6街区」と呼ばれる水産仲卸売場棟で、街区を担当する清水建設様のご厚意により東京都の許可をいただいた上で行われた。

それに先立つ7月5日、一般社団法人まちふねみらい塾との共催で「観光インフラとしての東京の水辺を考える」と題した水上セミナーを行ない、新築ホテルの見学に拘らずに東京の観光資源を探る活動を始めたところであり、その湾岸シリーズ第2弾として企画した。

ところが、東京都の許可を申請した直後から「汚染土壌撤去後の埋め戻しがされていない」事実が問題化し、開業が延期されるに至った。見学会自体も中止か無期延期を覚悟していたところ、見学会はそのまま許可されたのである。

ただし、当然のことながら、当時政治問題にまでなっていた地下の部分には立ち入っていない。

 

まず最初に工事現場事務所にて清水建設御担当者から計画についての概要説明を受け、その後実地に見学をさせていただいた。市場を実際に目にしての第一印象は「とにかく大きい」ということに尽きる。

卸売場棟と仲卸売場棟の間に立つと見渡す限りが市場の施設という感じである。

今回見学したのは市場全体の1/4にも満たないと思われるが、それでも駆け足で廻るのに2時間弱を要した。これが開業後であれば実際に運営している様を見ることになるのだからより壮観であろうと思われる。

仲卸売というのは卸売の次の段階で、テレビなどでもよく見るマグロの競りは卸売で行われる。仲卸売では卸売で仲卸業者が買ったものを小売りに販売するための施設であり、そこには数多くの仲卸売業者がそれぞれの店舗をもち、屋内ながら将に「軒を連ねる」ようになる。

見学の時点では幾つかの業者のブースが内装工事を終えているものの、ほとんどがまだ標準仕様のままの空き家状態であった。この標準仕様のブースもテレビ報道などでは「間口が狭くマグロが捌けない」と言われていたが、内装を終えた業者のブースを見ると幾つかのブースをまとめて使っているところが多かったようである。

早い段階で内装にかかれるのはそういう資力のある業者なのかも知れない。

1階部分にはこうしたスペースが拡がり、外側から間近に車が横付けできるようになっているのであるが、卸売場棟と仲卸売場棟を結んで水産物を運搬する通路、および仲卸売場棟内や実際に仲卸を経て外に搬出されるまでの通路は通常の車は入れず、クリーン動力の特別な車両のみが通行できるようになっている。

2階にはこうした活動を上から見下ろせるような見学者用の通路が完備されており、卸売業者や運営者の事務所スペース、飲食店などの店舗も入居している。築地が創業第一号店であった牛丼チェーンもこの2階に入居予定だそうである。

さらにその上の3階は広大な駐車スペースとなっており、地上とは外部のスロープで繋がり、1階の仲卸売場とは巨大な昇降機で結ばれている。

この昇降機は床がそのまま湾曲して立ち上がり巾木になっているなど、汚れが溜まらないような工夫を施した仕上であった。

3階の駐車場は風雨を防ぐ屋内空間になっているが空調ダクトの類は全くない。屋根に起伏を付けてハイサイドライトのように自然換気窓を大きく設けており、屋根に凹凸のある特徴的な外観はこの機能が表現されたものであることが判る。

さらにこの施設の特徴的なのは駐車場を覆う屋上に施された広大な緑化であり、前に触れた屋内見学通路とは別に、施設内を見学しない人たちでも市場を取り囲む公園から直通の階段、エレベーターで屋上と同じレベルまで上がり、専用のブリッジで屋上公園に入ることが出来ることである。この駐車場と屋上公園のために建築・躯体工事費のかなりの部分をかけていることは想像に難くない。

市場の施設全体で豊洲埠頭のかなりの部分を占めるのであるが、埠頭の外周部は都立の公園として解放されている。市場の北東辺りにはパラリンピック選手のために整備された木造の屋内ランニングトラック施設が既に完成しているが、これを含んで取り巻く公園はジョギングコースとしても最適な、長大な臨海公園になっている。

市場の屋上からここに向かって延びるブリッジが対岸の晴海埠頭の選手村予定地を望むように突き出し、外周を取り巻く公園に足を降ろしているのである。

こうした施設の開放性は東京都の施設ならではの試みであると評価したい。公園の運営管理と市場施設の運営管理が両方とも東京都だが、都の中でも異なる部局が行うはずであり、それが協力することが前提であることを考えるとかなり先進的な試みであると考える。

一方で、屋上を緑化するということは、市場内部の衛生環境にとってはかなり厳しい条件であるはずである。緑があれがそこには鳥や昆虫、さらにバクテリア、雑菌等も発生し、否が応でも一つの生態系をつくってしまう。

それをコントロールするのは容易ではないはずだが、間の3階にある駐車場がある程度はバッファの役割を果たしているのかも知れない。

豊洲市場を見学してからだいぶ時間が経ったが、今思い直してもかなり徹底して安全、衛生管理がなされていたと思う。

現在は開業の時期が決定できず混沌とした状況だが、安全面の問題は技術的に解決できるはずなので、必要な改善は直ぐに行い、政治問題化せずに一刻も早く開業することを願っている。

最近、石原元都知事が「現在の都政は安全と安心を混同している」という主旨の発言をしていたが、将に的確な表現だと思う。

豊洲開業の次には環状二号線の整備が続き、さらに続いて築地市場跡地の再開発、と大きな課題が残っている。

築地の再開発の計画は今後の東京の姿に決定的な影響を与える。これを後延ばしにすることは東京の未来にとって大きな損失であると考える。