NOHGA HOTEL UENO 上野の街の伝統と共にあるホテル

2019年が明けて1月22日、前年末に上野にオープンしたNOHGA HOTEL UENO(ノーガホテル上野)の見学会を行った。オープン前後から様々なメディアでも取り上げられた話題のホテルで、野村不動産が初めて手掛けるホテルブランドである。上野駅から上野公園とは反対の方向に歩いて5分ほどの古い街割りの中に位置する、宿泊客をターゲットにしたコンパクトなデザインホテルである。NOHGA(ノーガ)とは聞きなれない言葉だが、野村(のむら)に「思いがけない幸せ」と意味する「冥加 (みょうが)」を連ねて「のうが」とした造語で、つくる側の気持ちが込められた命名だ。


立地は北側に9m、西側に5mほどの幅の道路の交差点に面し、その角は上野駅に最も近い方を向いている。駅から徒歩で訪れる際にはこの角から入ることになる。決して大きな敷地ではないが、敢えて道路境界から壁面を下げ(道路斜線を緩和しているのだろう)、コンパクトにすっきりと立ち上がる形をつくっている。角からアプローチすると、道路に沿った植栽と1階レストランのガラス窓との間の敷地内の路地を通ってやや奥まったエントランスに導かれる。西側の道路沿いの空間はこうした外部エントランスに使われている。
 
もう一方の北側のセットバックした屋外空間は、レストランから出られる屋外のテーブル席として、パラソルを配して緑に囲われた心地よいスペースとなっている。暖かくなったら是非訪れてみたい。奥まったエントランスまで客を引き込み、レストランを前面に出すという配置を道路からのセットバックを使って上手く成し遂げている。


上野の街の伝統と共にあるホテル


セミナーは15時からと16:30からの2回に分けて30人ずつ合計60名の方々に参加いただいた。関心の高さがわかる。1階のレストランエリアを使って野村不動産都市開発事業本部の中村泰士さんから事業計画とホテルコンセプト、清水建設設計本部の間島梓さんから建築計画、フォワードスタイルの南部昌亮さんから共用部と全体のインテリアコンセプト、エンネデザインの大橋規子さんから客室インテリアデザインの説明をしていただいた。


この敷地一帯はもともと寛永寺門前町で、江戸時代には今の上野駅から公園にかけての全てを含む徳川家の菩提寺として大変な権勢を誇った寛永寺の境内に接してあったため、様々な職人や絵師、食の文化が盛んであった。


このホテルではそうした地元の伝統的な産物やテイストを消化して取り込んでいる。セミナー中にサービスしていただいたお茶菓子に添えられた薄張りのガラス器や江戸切子の器、銀器などのカトラリーを見るのも楽しい。宿泊客にはそうしたものを発見する楽しさがあるだろう。そのためにも客に充分な時間をホテル内で過ごしてもらわなければならないが、それだけの価値がある寛げる空間が出来ていると感じさせられた。


 誰もが寛げる充実した共用空間


前述のように エントランスに至る通路は西側の外部空間をつかって、一旦客を南の奥に引き込み、コンパクトにまとめられた受付で迎え入れる。ここに飾られている品の良いアートは、定期的に展示を変えるそうである。
レストランへはこの受付エリアをかすめて北側へ戻る形で入ることになる。


 BISTRO NOHGAの吹抜け


BISTRO NOHGAと名付けられたレストランはどこまでが食事の席で、どこがカフェ席なのか境界が曖昧だが、それがコンセプトなのだろう。東側のオープンキッチンはカウンター席で囲まれているが、朝にはここがブフェカウンターになる。


   オープンキッチンとカウンター席


中央には2階に階段で通じる吹抜があり、大きなテーブルがシンボル的に設えられている。西側の(吹抜に比べれば)天井が低いエリアは、低めのテーブルとチェアがゆったりと配された寛げる空間だ。吹抜でつながる2階にはライブラリーラウンジとジムがある。さらに西側にはバルコニーテラスがあり、食事やドリンクが楽しめるようになっている。ライブラリーと共に居心地の良い連続した空間となっている。最初の計画では客室としていた2階の一部を変更して共用部を拡充したとのことだが、その成果は明らかだろう。


   ライブラリーラウンジ


   バルコニーテラス


美味しいお菓子と珈琲をいただきながらのセミナーが終わったあと順次、最上階に空けて用意していただいた代表的な客室を見学した。64㎡のNOHGA Suiteをはじめ、代表的な客室を見ることができた。


 センスの良さが光る客室のインテリア


すべての客室で洗面カウンターはオープンで客室を広く見せるように工夫されている。ワードローブもオープンにして敢えてハンガーを露わに見せるデザインと相俟って実際の面積以上に広く感じるが、同室の客の間でのプライバシーは確保出来るように最低限のカーテンやスライディングドアで仕切れるようになっている。


   デラックスツインのカラースキーム


   NOHGA Suiteの洗面スペース


客室と共用部に共通して言えることだが、一つ一つの家具や水栓、金具などはよく吟味された上で選ばれており、目利きのデザインという感じだ。特に印象的なのはカラースキームのセンスの良さで、薄めのグレーや木目をベースにしながら上手く差し色となるカラフルな要素も加えて飽きの来ない空間を随所に創り出している。南部+大橋両氏のコンビはこれまで野村不動産をはじめとした高級レジデンスのデザインの経験が豊富だが、その良さが非常によく出たインテリアだと感じた。筆者は常々、住宅は日常の空間だがホテルは非日常の空間だと考えているが、ここでは必ずしも非日常的ではなく、自宅にも欲しいが手が出ないちょっと良いグレードの設えが溢れており、それが寛げる居心地の良さをつくっている。リピーターが多く生まれそうなホテルだと感じた次第である。