ハイアットセントリック銀座 東京 セミナー見学会報告

2018年4月23日、銀座並木通りにオープンしたハイアットの新しい都市型ブランドのホテル、ハイアットセントリック銀座にてセミナーと見学会を行なった。並木通りのブランドショップ街の中に位置するかつての朝日新聞本社跡で、明治時代には夏目漱石もこの場所で筆を振るっていたらしい。築地に朝日新聞が移転した後、旧ビルは賃貸ビルとして1,2階を店舗、その上をオフィスとしていた。銀座はこの15年余り高密度な建て替えが進んでいる。都内でも戦後の復興が最も早かったエリアで、旧法規では地下が容積に含まれなかったため都市計画上600~700%の容積率のエリアで実質800%程度の建物が建っている。高密度ではあるものの、旧耐震基準による建物が多く、ひとたび震災が起これば壊滅的な被害を受けるのは明らかなため、中央区は地区計画を整備して容積割増を得やすくするなどのインセンティブを与えて街のリニューアルを推進したのである。この旧ビルの建て替え計画が起こったのは4~5年前だったと記憶している。筆者は設計コンペに参加して敗れたが、その時の計画条件は旧ビルと同じ店舗の上にオフィスが載る計画であった。その後観光客需要の増加を受けて元の計画が白紙に戻され、ホテルに方針転換されたようである。
新しい建物でも1,2階はブランドショップであり、メゾネット形式の店舗が縦割り状に並んでいる。その一角にこじんまりとしたホテルの地上ロビーがあり、エレベータで3階にあるレストランとバー、その上の4階ロビーに上がることが出来る。3階ではエレベータを降りた手前から順にバー、ラウンジ、レストランと奥に繋がっていく。両端のバーとレストランは2層吹抜けになっており、バーの周りを囲むようにして4階ロビーに上がっていく階段は宿泊客とバーの客が互いに見て見られる関係を上手く演出してするよう絶妙に配置されており、薄く、美しい。
セミナーは3階中央のラウンジスペースを使って行われた。随分と種類の豊富なデザートにコーヒーがふるまわれ、ここの食事のレベルの高さを垣間見せられた後、設計者である鹿島デザインの磯氏、ハイアットの内山総支配人から設計、ブランドのコンセプトを詳しく説明いただいた。前述の階段は設計~施工を一貫して請け負った鹿島が通常の構造検討のみならずモックアップもつくって詳細を検討したそうである。見せ場と決めたところには徹底的に労力をかける姿勢に感銘を受けた。
ターゲットを宿泊客に特化し、東京への旅行客に都心の別邸を提供するイメージを大切にしている。基準階は端部に大きめの部屋を配置し、他はすべてスタンダードで充分な広さを持たせ、必要な機能がすべてコンパクトに、品良く効率的にまとめられている。「ここを起点に、銀座・東京を満喫する」という目的がはっきりとデザインコンセプトに反映されている。
4階のロビーは四方に開いたフレンドリーな受付カウンターとコンシェルジュがあり、周囲の壁は時折色彩や雰囲気を変えられるような工夫がされ、旅行者の興味を誘うライブラリーを介して居心地の良いラウンジにつながっている。
客室以外の施設は飲食とジムにほぼ限定している。3階に集約されている飲食部門のレイアウトも機能的で、吹抜けで天井の高い部分の開放的な席や、天井の低い部分のコージーな席が上手く配分されている。何処にいても周囲から邪魔されない、落ち着きを感じられるレイアウトの工夫がされながら、前述のように、必要に応じて60人程度収容のイベントが出来るスペースを内包している。並木通りに面してはテラス席があり、街路樹の緑の上から行き交う人々を見下ろして寛げる空間を提供している。テラスの直情は客室フロアが覆っているため若干の雨の日でも気持ち良く使えそうである。
インテリアにはこの場所が新聞社、メディア企業のルーツであることをイメージさせる、活字、活版印刷機、紙等々のモチーフを使った色鮮やかなアート、壁紙やカーペットが用いられている。奇数階と偶数階で基調色を赤、青とカラースキームを変えるなど、客に自分の滞在するスペースを特徴づけて見せる工夫も秀逸である。スタンダードの客室は充分な広さをもちながら、水廻りや冷蔵庫をふくめたバーのレイアウトにはスライディングウォールを上手く配置することで、ある時は部屋全体がワンルームとなり、必要に応じてプライバシーを確保することも出来るよう、細かい工夫がされている。
最上階の中央には1室のみスイートルームが用意されている。入ると直ぐに鉄板焼きも出来るキッチン付きのダイニングルームがあり、シェフを呼んだケイタリング、パーティーも出来る。その奥にはリビングがあり、キャンバス地のキャノピーのあるテラスと繋がっている。その奥には水廻りの充実した寝室、バスルームがある。高額ながら非常に稼働率が非常に高いそうで、この日に見学できたのは幸運であった。
銀座の真ん中にあって、決して大きくは無い敷地を充分に活かしきった、機能的でハイセンスな、寛げる空間を満載したホテルである。宿泊するなら是非数日連泊で、食事のためだけでもまた来てみたいと感じた次第である。